田辺三菱製薬の“ベストパートナー”探しの号砲が鳴り響いた。11月13日、三菱ケミカルグループは経営方針説明会を開催、35年度をターゲットとする長期ビジョン「KAITEKI Vision 35」と、来年度を起点とする「新中期経営計画2029」(図)を発表した。
「長丁場になるから」。三菱ケミカルGの筑本学社長(写真)は、こう独りごち、上着を脱いだ後、演壇から会場に降り立ち、説明に臨んだ。だが、その気合いの入り方とは裏腹に、グリーン・ケミカルで飛躍するという成長戦略が「具体性に欠ける」(市場関係者)との見方が大勢だったのか、当日の株価は下がり、手荒い洗礼を受けた。
石油化学に代表される基礎化学品から、食品包装材料のような機能性の高い化学品まで幅広く手掛ける三菱ケミカルGは、「総合化学」と言われ、業界内でのヒエラルキーは最上位。だが、「総合化学は総花化学」と自嘲する業界首脳がいるように、往々にして何か突き抜けた強みを擁している訳ではないのが玉に瑕だ。
本来、多彩な技術・製品はさまざまな領域のカバーにつながり、事業環境の変動に左右されない安定収益に結び付くはずなのだが、実際はそうはならず、「コングロマリットディスカウント」と呼ばれ、市場からは嫌気されている。三菱ケミカルGもその状況に陥っている。
こうした陥穽から抜け出るため、筑本社長が打ち出したのが化学への回帰だ。ビジョンでは、自社の事業を、石化などの「ケミカルズ事業」と、田辺三菱を核とするファーマと産業ガスで構成する「グループ事業」に大別。前者は24年度予想で550億円のコア営業利益を、環境負荷の少ない化学品の供給を拡大することで35年度には10倍となる5500億円まで引き上げる。ファーマと産業ガスに「おんぶに抱っこ」(筑本社長)という収益構造を逆転させ、化学で“食っていける”会社を目標とした。
とはいえ、中国が基礎化学品にとどまらず、機能化学品まで大増産し、アジア市場の需給が大きく緩むとみられるなか、どう収益を上げていくのか。さまざまな技術・製品があることを逆手に、「つなぐ」をキーワードに三菱ケミカルGは勝ち残る戦略を描く。競争力のある技術や製品を組み合わせ、顧客が求める最適解を提供できるようにするというのだ。
「ビジョンとの整合性」「競争優位性」「成長性」という基準下で、選択と集中も行う。ビジョン実現のための最初の5年の行動計画とする新中計では、ケミカルズ事業だけで約30件、売上収益で4000億円相当の事業の整理・売却を予定していることも明らかにした。